中国における抜け駆け商標登録問題への対抗策

Posted on Posted in Asia, entertainment

先月の投稿で、日本企業のブランド/商標が、中国において抜け駆け的に登録されてしまった場合における、中国商標局への異議申立や商標評審委員会(行政)への取消裁定の請求などの対策を一部紹介させて頂きました。
今回は、日本企業の他の対抗手段として、裁判所に訴え提起は効果的な手段となり得るのか、今年3月に判決が出された双葉社の「クレヨンしんちゃん」のケースを通して考えてみたいと思います。

☞ どんな事件?
この事件では、双葉社が、中国企業3社に対して、「クレヨンしんちゃん」(「蜡笔小新」(「クレヨンしんちゃん」の中国名)の文字及び図形(しんちゃんのキャラクターの絵))を使用した子供用靴などの販売停止と損害賠償請求を求め、中国の裁判所に訴えを提起しました。
「クレヨンしんちゃん」の文字と図形の使用の差止めを求めるのに、(登録により権利が発生する)商標権の侵害ではなく、(登録なしに権利が発生する)著作権の侵害を請求の根拠としたのが法律上の工夫です。

☞ 争いのポイントは?
この裁判で、中国企業は、
「自社(当該中国企業)が「クレヨンしんちゃん」の文字及び図形について商標登録を既にしているので、その使用行為は、商標権の正当な使用として違法ではない」
と反論しました。
つまり、自分が先に合法的に商標登録をしたのだから、その商標を使用することが違法になることはない、ということです。
では、合法的に登録した商標権の使用であれば、著作権侵害にならないのでしょうか。

☞ 判決内容は?
実は、この事件は複雑な背景事情があり、提訴から判決まで7年もの年月を要したのですが、今年2012年3月、中国の裁判所は、先駆登録した商標権の有効性に直接的に言及はしていないものの、以下の判断を示しました。
「著作権と商標権とはそれぞれ独立した民事上の権利であり、それぞれの権限を有する。
しかしながら、権利者が自らの合法的権利を行使する場合、他人の合法的権利を侵害してはならない。
被告は自らの商標権を使用する過程において、先に存在する著作権者の専用権を無断で行使しており、その行為は著作権侵害であり相応の著作権侵害の責任を負わなければならない。」
としたうえで、被告中国企業3社のうち1社が、双葉社の「クレヨンしんちゃん」の文字及び図形の著作権を侵害したとして、当該中国企業に対して、侵害行為の即時停止と合計30万元(372万円)の損害賠償金の支払いを命じるという判決を言い渡しました。
つまり、
著作権と商標権は、制度趣旨が異なるものであり両者は別のものであることを前提に、合法的に商標登録をした場合であっても、その商標を使用する際に他人の著作権を侵害してはならない、というルールを示した上で、
「クレヨンしんちゃん」の文字及び図形については、原告日本企業が中国企業による商標登録より先に著作権を持っていたのであり、その後に被告中国企業がその文字と図形を勝手に使うことは、それが合法的に登録した商標の使用であったとしても著作権侵害となる、
ということを示したのです。

☞ 今後の展望
この判決は、日本企業にとって、中国での事前の商標登録がなく、中国企業に抜け駆け的に商標を出願されてしまった場合でも、当該中国企業を相手に著作権を武器に戦うことができるということを認めました。
その意味では、今後日本企業が中国におけるブランド展開をするにあたり、重要な先例となるのではないかと思います。
この判決を受けて、日本企業としては、この判決文にいう「先に存在する著作権者」であることを証明するために、日本では今までほとんど使われてこなかった著作権登録によって著作権の発生時期を明確にしておく(著作権法76条~)ことも、今後は重要になってくるのかもしれません。

他方で、この「クレヨンしんちゃん」事件で勝訴する過程で、双葉社は裁判の勝訴額の10倍以上の裁判費用等を費やしたとも言われています。
また、この勝訴判決だけでは、双葉社が中国において「クレヨンしんちゃん」の商標権を取得することはできず、この商標権取得のためには別途商標権の取消訴訟を提起することなどが必要となり、その場合には更に費用や時間がかかってしまいます。

このように、この抜け駆け商標登録の問題の解決策はまだまだ十分とはいえませんが、今後、中国の裁判所がどのような判断をしていくのかも含め、中国において知的財産権に関する意識が高くなったことを国際社会にどうアピールしていくのかについては、今後も注目が集まるところかと思います。


参考:中国における「クレヨンしんちゃん」訴訟の勝訴判決について(by双葉社)
http://www.futabasha.co.jp/introduction/shinchan_trademark/

コメントを残す