スタートアップが知っておきたい法律知識⑤ 優先株式の設計

Posted on Posted in internet, startup

 

「日本にGoogleのような企業が出てこないのは優先株式が普及していないから」(磯崎哲也)という記事を読みました。
http://diamond.jp/articles/-/56390

磯崎さんの記事では(※1)、「優先株式を上手に活用することで、ベンチャーはより大きな額の資金調達をしてより大きな目標にチャレンジすることができるようになる」という意味で、優先株式はとても大切、ということが指摘されています。

そこで今日は、優先株式について簡単に綴ってみたいと思います。

■優先株式とは

今日のテーマの「優先株式」は、会社が発行する株式の一種です。
残余財産の分配を「普通株式」より優先して受けられるなどの特殊な条項がついているものを指します(※2)。
スタートアップの創業者が普通株式をもち、投資家が優先株式をもつ場合に、投資家側が投資に対するより大きなリターンを受けられる可能性を高める点で、優先株式に投資家の投資を促進する効果があることは直感的にも分かると思います(※3)。

■設計次第で創業者側にもメリット

スタートアップの創業者としては、どうでしょう。「あえて優先株式を用いなくとも事業の成長に必要なファイナンスができる」「普通株式で増資することがシンプルで分かり易い」というケースもあるかもしれません。
一方で、優先株式は、設計次第で投資家、スタートアップの創業者両方がメリットを享受できる制度です(※4)。
例えば、スタートアップの創業者側は、優先株式の株価(valuation)を、普通株式の株価より高く設定して投資家側に引き受けてもらうことが可能となります。この場合、普通株式で投資を受けた場合よりも投資家の持株比率を低く(創業者の持株比率を高く)することができます。外部の投資家の持株比率を低くすることで、経営の自由度が確保しやすくなる、将来のエクイティでのファイナンスの余力を残す、などのメリットが得られることも考えられます。
このように、創業者にとっても、資金調達の方法として、優先株式を活用を検討する価値があります。

■普及が進まないのはなぜ

冒頭の磯崎さんの記事では、以下の2点が優先株式の普及が進まない一因と指摘がされています。
①優先株式の実務が複雑なこと
(上記の残余財産の分配の他にも特殊な内容を定めることが少なくないです)
②種類株主総会の運営が必要となること
(優先株式を発行した場合、普通株式をもっている株主による株式総会、優先株式をもっている株主による株主総会、どちらも運営が必要となります)

■シンプルに設計する工夫もできる

優先株式については、少し難しい印象をもってしまうかもしれません。
それでも、実務をシンプルに、種類株主総会の運営を簡素化することも工夫次第で可能です。

まず、実務上、スタートアップに対する投資として優先株式を用いた事例は多数あります。
こうした事例から、優先株式の設計について標準化、類型化することで、優先株式について分かりやすくできる部分もあるように思います。(※5)(※6)

次に、種類株主総会の運営が煩雑な面は確かにあり、諸々の会社の意思決定に際して注意は必要です。
一方で、種類株主総会の決議が必要な場合は、会社法上かなり明確化されています。「いつ、どのような決議をすればよいか予測できない」というものではないです。
また、定款、投資家との株主間契約の工夫などで運営を簡素化する方法もあります。
具体的なケースにもよると思いますが、こうした運営の簡素化は、スピード感をもって会社運営、意思決定することにつながり、スタートアップの創業者にとっても、投資家にとっても、メリットがあり得ますので、一考の価値があると思います。(※7)

優先株式を活用した成功事例が積み重なって、より大きなチャレンジをするスタートアップが増えればと思います!

(※1)磯崎哲也著『企業のエクイティ・ファイナンス』(ダイヤモンド社)でも同趣旨の記載があります。
同書籍は、磯崎哲也著『企業のファイナンス』(日本実業出版)とあわせて、スタートアップが投資を受けるに際して大変参考になる書籍です。

(※2)会社法上は、「優先株式」「普通株式」について定義はされていないですが、本文中の「普通株式」は、特殊な条項がついていない株式を想定しています。

(※3)例えば、ある会社A(普通株式を100株発行済とします)が2億円の出資を受け、投資家が普通株式20株を持つとします。
将来、この会社Aが(事業の全部を第三者に譲渡して)6億円を全体の残余財産として清算した場合、残余財産は株式の保有割合(創業者:投資家=100:20)に従って分配されますので、創業者、投資家に分配される残余財産は、次のとおりです。
投資家:1億円(6億円×20/120)
創業者:5億円(6億円×100/120)

他方、ある会社B(会社Aと同様に普通株式を100株発行済とします)が2億円の出資を受け、投資家が優先株式20株を持つとします。この優先株に、投資額の1.5倍(1株あたり1500万円=3億円)まで普通株式より、優先して分配を受ける権利が含まれているとします。
将来、この会社Bが(事業の全部を第三者に譲渡して)6億円を全体の残余財産として清算した場合、創業者、投資家に分配される残余財産は次のとおりです。
投資家:3億円(6億円×20/120=1億円ですが、投資額の1.5倍=3億円までは優先)
創業者:3億円(6億円−3億円)

上記の例で会社Aの投資家も、会社Bの投資家も、投資額が2億円、投資家持株比率は20/120、投資先会社の全体の残余財産が6億円、という点は同じです。
ところが、会社Aの投資家は投資額を下回る残余財産の分配を受けられるにとどまるのに対して、会社Bの投資家は投資額以上のリターンを得ることができます。
このように(単純に比較すると)、優先株式には、普通株式より、リターンを得られる期待値を高める点で、投資家の投資を促進する効果があることが分かります。

(※4)「未上場企業が発行する種類株式に関する研究会『未上場企業が発行する種類株式に関する研究会報告書』(平成23年11月)」で、投資家、起業家双方のメリット等に言及されています。
http://www.meti.go.jp/report/downloadfiles/g111202a01j.pdf

(※5)最近の自民党・日本経済再生本部の「日本再生ビジョン」(平成 26 年 5 月 23 日)の中で「起業大国No.1の実現」が柱の一つとされています。その中で「種類株式については、投資家とベンチャーのいずれもがそのメリットを享受できるよう、標準モデルの作成、登記や法定種類株主総会などの柔軟性に欠ける制度の見直しをする。」という言及がされています。
https://www.y-shiozaki.or.jp/pdf/upload/20140620104042_5hdM.pdf

(※6)優先株式による資金調達の事例も多数あることから、前例を参考にできます。例えば、ベンチャーキャピタルが数億円の規模で出資する場合、優先株式を活用していることも少なくないと思います。会社法上、優先株式の内容については登記が必要ですので、ベンチャーキャピタルから大きな資金調達をした会社の登記情報をみることで、有益な情報を得ることができます。なお、登記情報は、一般財団法人民事法務協会の登記情報提供サービスを利用することで、インターネット上でも確認することができます
http://www1.touki.or.jp/

(※7)テクニカルな内容になってしまいますので、また別の機会があれば分かり易く綴ってみたいと思います。

コメントを残す