ハリウッド映画製作の法律実務 脚本に内在する法的リスクへの対処法

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「映画『ゼロ・グラビティ』を盗作として12億円を要求した作家の訴えが棄却される」

先日、あるアメリカのベストセラー小説家が、昨年大ヒットした映画「ゼロ・グラビティ」の製作会社であるワーナーブラザーズに対して、同映画作品が自身の小説の盗用であると主張して約1000万ドルの損害賠償を請求した結果、その請求が棄却されたというニュースがありました(*1)。

ゼログラビティ

映画業界では、脚本の内容に対して第三者からクレームがなされることは非常に多いため、映画製作者としては、このようなクレームを防ぐことが非常に重要となります。
そこで今回は、ハリウッドの映画製作実務において、映画の脚本に関してどのような法律上のリスクがあり、これに対して、メジャースタジオなどの映画製作者たちがどのような対策を採っているのかについて綴ってみました。

☞ 脚本にはどのような法律上のリスクがある?

映画製作者に対するクレームの種類・内容は多岐にわたりますが、例えば、
①契約をした脚本家から映画製作者に対するクレーム:
→ 契約違反に基づく映画の差止請求・損害賠償請求など

②契約をしていない第三者から映画製作者に対するクレーム:
→ 脚本内容の盗用、著作権侵害、プライバシー権侵害、パブリシティ権侵害、名誉毀損、または商標権侵害に基づく映画の差止請求・損害賠償請求など
などが挙げられます。

では、映画製作者としては、このような法律上のリスクにどのように対処するべきなのでしょうか。

☞ ①契約した脚本家からのクレームを防ぐためには?
ここで特に重要なことは、脚本家との間で、必要事項を漏れなく規定した契約書を交わすことです。
映画製作者が脚本家から脚本の映画化権を取得する際には、オプション契約(脚本の権利の譲渡の予約を定めた契約)を締結することが一般的です(*2)。
その際には、譲渡対象となる権利の内容、脚本家に留保される権利の内容や、対価の内容を明確に規定することや、脚本家による「脚本の内容が第三者の権利を侵害していないこと」などの表明・保証、そして、万が一違反があった場合における脚本家の責任などを規定することが重要となります。

☞ ②契約をしていない第三者からのクレームを防ぐには
今回紹介したニュースのように、「アイデアの盗用だ」というクレームはよく見受けられますが、まず、アイデア自体は原則として、著作物として保護されません。この点は、アメリカでも日本でも同様です。
もっとも、アメリカにおいては、例えば、映画製作者が、第三者から持ち込まれた「●●という内容の映画を作ったらどうか」などといったアイデアの提案を不用意に聞いてしまうと、結果的に出来上がった作品が、その提案内容に似ている場合には、後日そのアイデア提案者から訴えられるリスクがあります。
実際、類似の事案において、当事者間においてアイデア使用の対価を支払う旨の黙示の合意が成立したとして、アイデア提案者による請求が認められた判例もあるため(*3)、ハリウッドにおいては、映画製作者としては、第三者からのアイデアの提案を不用意に見聞きしないという防御策が採られています。

その他にも、第三者による、脚本の内容が自分のプライバシー権、名誉権、パブリシティ権、商標権侵害などを侵害しているといったクレームもよく見受けられます。
そのようなリスクを極力減らすため、ハリウッドでは、弁護士や法務担当者が脚本の内容を隅々までチェックして、他人の権利を侵害していないか入念に検討をしています。
例えば、ビバリーヒルズに住む医者が主人公となるフィクション作品を製作する場合でも、現実にビバリーヒルズに同じ名前とバックグラウンドをもった医者がいないか調べたりしています。

☞ 脚本の内容が他人の権利を侵害してしまったら?
万が一、脚本の内容が他人の権利を侵害してしまい、裁判所において映画の上映が差止めにでもなれば、映画製作者としては莫大な損失を抱えてしまいます。
そうなると、たとえ脚本家に「脚本が第三者の権利を侵害していないこと」を保証してもらったとしても、差止めによる莫大な損失の補填を脚本家に求めることは現実的には不可能です。

そこで、ハリウッドで映画を製作する際には、E&O(エラーズ&オミッション)保険という、第三者からの権利侵害の請求による映画製作者の損失を補填する保険に加入することによって、権利侵害のリスクに備えています(*4)。

☞ 日本でも注意が必要!
以上はハリウッドの映画製作の実情ですが、脚本にこういった法律上のリスクが内在することは日本でも同様ですので(*5)、日本における映画製作の際にも、こういった脚本をめぐる法律上のリスクを極力減らす対策をきっちり行うことが重要です。

*1 本件の小説家は、小説「Gravity」の映画化権を、とある製作会社に売却し、映画の純利益からコミッションを受け取る契約を結んだところ、その後、ワーナー・ブラザーズがその製作会社を買収。そこで、ワーナー・ブラザーズがその映画化権を定めた契約を引き継いだかどうかが争点となった結果、かかる契約の引き継ぎを示す証拠が不十分であると判断され、本件小説家の主張が退けられました。

*2 オプション契約の他にも、著作権譲渡契約やライセンス契約、または脚本が職務著作である旨を規定した請負契約なども見受けられます。

*3 1956年のDesny v. Wilderのケースでは、原告Desnyが、被告Wilderの秘書に対して、映画の脚本のアイデアを提供した上で、「もしこのアイデアを使うなら、その報酬をもらいたい」旨を伝え、これに対して被告の秘書が、「Wilder(被告)に伝えた上で、検討する」旨回答。その後両者は明確な合意をせず、被告が原告のアイデア類似の内容の映画を製作。本件では、原告と被告の間では、アイデア使用の対価として被告が原告に対して報酬を支払う旨の黙示の契約が成立していたと判断され、原告の主張が認められました。

*4 現在、日本にはこの保険はありません。

*5 日米の法制度の違いなどもありますので、詳しくは事前に弁護士など法律の専門家にご相談下さい。

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