シンガポールの法律実務 会社設立の際に知っておくべきポイント

Posted on Posted in Asia, internet, startup

日系企業や日本人の起業家が、国境を越えて東南アジアで事業を展開することは、もはや珍しいことではありません。東南アジアのハブと言われているシンガポールも、既に日系企業が3000社程度あると言われています(*1)。

そこで今回は、シンガポールで新たに事業を始めるにあたって、まず最低限知っておきたいルールと特徴を紹介したいと思います。

photo opportunity

外資規制は緩いが、ライセンスが必要となる業種やインターネット規制に注意
シンガポールでは、国家の安全にかかわる一部の分野を除き、日系企業や日本人がシンガポールの会社に100%出資することが認められているため、ベトナムやインドネシアなど他の東南アジアの国と比べて、進出が容易です。

もっとも、メディア、放送事業、新聞社、電気・ガス事業、一部の製造業、金融業、法律サービス、一部の小売業(たばこ販売、スーパーマーケット、通信販売機器販売、薬局、化粧品販売など)、飲食業(レストラン、酒類販売など)、不動産業、建設業、教育産業、医療・介護サービスなどについては、ライセンスが必要です(*2)。

また、インターネットを使ったコンテンツ配信やEコマースなどにも規制がある点には注意が必要です。この点は、業態ごとに様々な規制がありますので、別の機会に詳しくご紹介したいと思います。

会社を設立せずに事業を行う方法
会社を設立しなくても、駐在事務所、支店、個人事業主、パートナーシップなどの形でシンガポールで事業を行うことも可能です。以下、簡単に会社と異なる特徴を挙げてみます(*3)。
①駐在事務所:事業進出を見すえた準備活動、市場調査のために用いられるが、逆に言うとそれ以外の活動ができないのが欠点。

②支店:独立した法人格がなく、法的には本店(親会社)と分離されていないのが特徴。入札条件や許認可など、会社の規模や実績、資本金の額が問題となるケースでは、日本の親会社が審査の対象となるので有利。閉鎖も比較的簡単。逆に、日本の親会社が支店の債務や法的責任を負う点に注意。また、取引にあたり、会社と比べると信用が一般的に低いのが欠点。

③個人事業主:1人で事業を行う形態。事業開始の登録手続がシンプルで、開始後もルールが少なく自由度が高い点は便利。ただし、事業開始にあたって登録が必要で、シンガポール国籍を持つ人、永住権保持者、エントレパスを保有する外国人、シンガポールで登記された法人しか登録ができないのが欠点。

④パートナーシップ:日本でいう組合。登録手続がシンプルで、パートナーシップ自体には課税されない点(いわゆるパススルー課税)はメリット。ただし、参加者がパートナーシップの債権者に対して、自分が出資した財産の範囲を超えて責任を負うことになり、参加者個人が負うリスクが大きいのが欠点(*4)。

会社設立は簡単、安い、速い
最も一般的なシンガポールの会社形態は、非公開の有限責任株式会社(Private company limited by shares)です。「有限責任」とは、株主(取締役は別なので注意)が、自分が出資した財産の範囲内でのみ責任を負う形態をいい、「非公開」とは、株主数が50人以下であり、かつ、株式の譲渡を自由に行うことができない会社をいいます。シンガポールの会社名の中に、「Pte Ltd」という表記をよく見かけるかと思いますが、この表記が非公開有限責任会社であることを示しています。

会社設立は、会計企業規制庁(ACRA)のBiz Fileというオンラインシステムを使って、①会社名をACRAに申請して、商号を確保し、②定款(Constitution)(*5)等の必要書類を同ACRAへ提出し、③設立確認証明を受けるといったシンプルな手順で完了です。ACRAへの登録手数料は、300シンガポールドル(約26,000円)と他の国に比べてリーズナブルで、資本金も1シンガポールドルで設立が可能です。その上、必要な書類さえ提出すれば、会社設立はその日中にできるなど、他の東南アジアの国よりも会社設立がしやすい環境が整っています。

取締役、会社秘書役の選任
会社設立にあたり、会社法(Companies Act)上、取締役を最低1人以上選任する必要があります。ここでは、最低1人の取締役はシンガポール居住者(ビザが必要)であることが必要な点にご注意下さい。

また、日本にはない役職ですが、会社法上要求される会社書類の作成等を行う、会社秘書役(Company Secretary)を選任する必要があります(*6)。会社秘書役は、シンガポール居住者であることが必要ですが、非公開会社の場合、その資格に制限はありません。

なお、シンガポールの会社では、マネージング・ディレクターという役職の人がよく選任されますが、これは日本でいう代表取締役と似ていますが、やや意味が違います。会社の社長がマネージング・ディレクターの肩書きを持っていることが多いですが、日本の代表取締役とは異なり、マネージング・ディレクターの選任は任意、その権限は、日本の代表取締役より狭く、原則として定款または取締役会決議に基づいて委任された範囲内に限られます

法律事務所などが設立代行サービスを提供している
設立手続は、自ら行うことも可能ですが、法律事務所などが、会社商号確保から、シンガポール法に則した定款作成、設立登記にいたるまで、パッケージで設立代行のサービスを提供しています。まずは1ドルの資本金で会社を依頼し、設立後に銀行口座を開設してから増資をするパターンが多く見受けられます。

更には、設立時に、取締役や会社秘書役として選任したいシンガポール居住者が誰も見つからない場合には、設立代行の事務所または会社に、一時的に取締役の名義貸しを依頼することや、会社秘書役の業務を委託することもよく行われています(会社設立→ビザ取得→シンガポール居住者という流れになるため、このような依頼は通常です)。取締役の名義貸しを依頼した場合、会社設立が完了し、取締役候補者がビザを取得した段階で、取締役の名義変更をします。

会社設立にあたっては、手続をスムーズかつスピーディーに進めるためにも、こうしたサービスを使うのがよいでしょう。この場合、シンガポールに行くことなく、日本から、簡単に設立手続を済ませることができます。

従業員の雇用に伴うビザの取得
日本人を含む外国人を雇用する際には、労働許可証/雇用許可書/Sパスといったビザを申請します。それぞれのビザには所得や学歴、年齢、出身国等による制限が設けられています(*7)。

最近は、外国人労働者の割合を調整する国の政策で、外国人雇用のルールが厳格化されているので(例えば、給与額や出身大学などの要件が厳しい)、ビザの取得についても事前に専門家に相談するのがよいでしょう。設立代行サービスとともに、法律事務所にこういったビザの相談を依頼することも可能です。

***

日本の少子高齢化が進む中、若い世代の人口が多く、まだまだ経済発展が見込める東南アジアで事業を展開したいという人たちは今後も増えていくでしょう。

一方で、東南アジアでは、日本とはルールや慣習が異なることも多いため(*8)、気付きづらい落とし穴もたくさんあります。

事業を円滑に進めるためにも、進出する地域に関する事前情報収集をしつつ、適宜専門家に相談するなどして、リスクを最小限に抑えながら事業を進めることが重要です。

*1 正確な数を把握することは難しく、シンガポール日本商工会議所のデータでは約2000社、ある人材派遣会社のデータでは約3000社と発表されています。
*2 詳しくは、ジェトロページ参照:https://www.jetro.go.jp/world/asia/sg/invest_02.html
*3 詳しくは、ジェトロページ参照:https://www.jetro.go.jp/world/asia/sg/invest_09.html
*4 有限パートナーシップ(Limited Partnership)や、有限責任パートナーシップ(Limited Liability Partnership)といった、出資者の責任が出資した財産の範囲に限られる形態もあります。
*5 2015年現在では、定款には基本定款と附属定款の2つに分かれていますが、会社法改正に伴い、2016年1月よりConstitutionという名の定款一つに統一されます。
*6 会社法上必要な、各種登録・届出・通知、株主総会の運営、議事録の作成・保管などの事務を行います。
*7 詳しくは、ジェトロページ参照:https://www.jetro.go.jp/world/asia/sg/invest_05.html
*8 東南アジアと一口に言っても、各国によって法制度は大きく異なりますのでご注意下さい。

コメントを残す