シンガポールの法律実務 実は厳しい!オンラインメディア規制

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シンガポールといえば、外資規制が緩いことで有名ですが、その反面、メディアに関する規制が厳しいことはあまり知られていません。
中でも、報道に至っては、国境なき記者団が公表する「報道の自由度ランキング2015」によると、シンガポールは180カ国中153位であり、極めて規制が厳しいと評価されています(*1)。
そこで今回は、シンガポールにおけるメディア、その中でも、オンラインニュースやエンタメ動画配信といったオンラインメディアの規制についてお伝えします。

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(メディア開発庁プレスリリースより)

☞ シンガポールのメディア規制に対する基本的スタンス
シンガポールでは、「インターネットは社会にとって有益なもので、過度に規制するべきではない」が、他方で、「シンガポールの人種や宗教間の調和や国家の利益を損なう内容の発信は制限されるべき」というスタンスが取られています。
その結果、テレビやラジオといった従来の放送事業に加え、インターネットを用いて情報を発信するメディアにも広く、放送法やメディア開発庁(Media Development Authority: MDA)の定めるルールなどによって規制が及んでいます。

☞ ニュースサイトのライセンス制度。一定の内容には削除命令なども。

従来、シンガポールの主なニュース番組は国営企業によって運営され、放送法やメディア開発庁の定めたルールに従い、人種や宗教間の調和や国家の利益を損なう内容の発信は制限されてきました。
ところが、インターネットの発達により、従来の規制が適用されないニュースの配信者が増えたことから、「従来のメディアとの一貫性を図るため」、2013年に、情報の受け手への影響力が大きい場合(次の①と②の双方を満たす場合)には、シンガポールを拠点とするオンラインニュースサイトやニュースアプリの運営者に対して、メディア開発庁からのライセンス取得が義務付けられました(*2)。
2ヶ月以上、平均で週1本以上、シンガポールに関するニュース(“Singapore news programme”)を配信していること
② 2ヶ月以上、月5万件以上のシンガポールのIPアドレスからアクセスがあること

ここで、そもそもシンガポールに関する「ニュース」(“Singapore news programme”)とは何なのか?世の中の出来事を綴った個人のブログなども含まれるのでしょうか?
放送法の通達によれば、「ニュース」に該当するためには、コンテンツを自らが提供するか第三者が提供するかを問わず、シンガポールの、社会、経済、政治、文化、芸術、スポーツ、科学などの側面について公共の関心事となる情報を含むものであれば足り、どの言語か、有料か無料か、定期配信か不定期配信かも問わない、とかなり広く定義されています。
また、シンガポールを拠点としている場合には個人か法人かを区別する規定がないため(”any person”と規定)、個人のブログもこれに含まれることになりそうです。
もっとも、メディア開発庁が2013年5月31日にフェイスブックに投稿したポストでは、個人の時事問題やトレンドなどを発信するウェブサイトやブログなどは規制の対象とはならない旨が記載されています。
現在、対象となっているニュースサイトやニュースアプリは、ヤフーニュースなど、10件程度と言われていますが、おそらく今後増えていくでしょう。
これらのニュースサイトやニュースアプリの運営者は、メディア開発庁からライセンスを受けるにあたり、テレビや新聞と同様、5万シンガポールドル(約400万円)の保証金を支払う必要があります。
このライセンスを受けた運営者は、メディア開発庁の定めた基準に従って、ニュースを配信することが義務付けられます。
ニュースの内容が、メディア開発庁の禁止基準に違反する場合、例えば、公共の利益や秩序、または善良な風俗に反するプログラムなどを配信した場合には、そのニュースサイトやニュースアプリの運営者は、メディア開発庁の指示に従い、24時間以内に、違反する内容を削除することが義務付けられます。
こういった規制に対しては、「ニュース」の該当性の判断や、禁止項目の該当性の判断にあたって、メディア開発庁に広い裁量を与えるものとして、表現の自由の保障の観点から問題はあり、今でもネット業界や人権団体などからは批判のあるところです。

☞ ニュース以外のコンテンツ提供も広く規制
こういった「ニュース」にあたらなくても、
ビジネス、政治または宗教的な目的で、インターネットを介してコンテンツ(”Any program”)を提供する者は、国内外を問わず(ただし、個人の場合にはシンガポール在住に限ります)、「インターネットコンテンツプロバイダー」として放送法の規制の対象となります。
これには、Web出版社やエンタメ動画配信業者、サーバーの管理者なども含まれます。また、解釈は曖昧ですが”Any program”の文言からは、フェイスブックやツイッターのようなSNSサービス提供者まで含まれるようにも読めます 。
このインターネットコンテンツプロバイダーに対しては、メディア開発庁から、自動的に「クラスライセンス」という資格が付与されます。
その結果、インターネットコンテンツプロバイダーは、同メディア開発庁が規定する条件(Internet Class License Conditions)や、インターネット行動規範(Internet Code of Practice)といったルールに従う必要があります(*3)。
この場合も、例えば、公共の利益や秩序、または善良は風俗に反するプログラムなどの配信は禁止されます(*4)。
これらに反した場合には、(ニュースの配信の場合と異なり24時間以内という制限はありませんが)メディア開発庁の指示に従い違反するコンテンツを削除することが、義務付けられます。

☞ 海外からニュース、コンテンツを提供する場合は?
シンガポールを拠点としないオンラインメディア、コンテンツプロバイダーに関しては、メディア開発庁の管轄が及びません。
ただし、2014に改正された放送法では、シンガポールの読者をターゲットとする海外拠点のニュースサイトも、公益や国家の調和を損なう場合などには、禁止命令が発せられるなど、規制の対象となり得るとされています。

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このように、シンガポールには、オンラインメディアに関する独自の規制があるため、新規参入する際には、うっかりこういった規制に違反しないよう注意が必要です。

*1 「報道の自由度ランキング」では、報道の自由に対する侵害について、法的支配やインターネット検閲、ジャーナリストへの暴力などの項目で調査されており、侵害度が大きいほど指数は高くなります。ちなみに、1位はフィンランド、日本は61位です。

*2 メディア開発庁ニュースリリース:
http://www.mda.gov.sg/AboutMDA/NewsReleasesSpeechesAndAnnouncements/Pages/NewsDetail.aspx?news=4

*3 メディア開発庁規定の条件:http://www.mda.gov.sg/RegulationsAndLicensing/Licences/Documents/Internet%20Services%20and%20Content%20Provider%20Class%20Licence/Class%20Licence%20%28Post%20ONLS%29.pdf
インターネット行動規範: 
http://www.mda.gov.sg/RegulationsAndLicensing/Licences/Documents/Internet%20Services%20and%20Content%20Provider%20Class%20Licence/mobj.981.Internet_Code_of_Practice.pdf

*4禁止項目に該当するかは、
・性的好奇心を刺激するヌードを描いているか、
・強制的なまたは意思に反する性的暴力・性行為を促進するものかどうか、
・性行為を露骨に描いているか、
・同性愛を推奨するかどうか、
・残虐な暴力などを描いているか、
・人種・宗教などに対する憎悪や衝突を駆り立てるかどうか、
などによって総合的に判断されます。

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