ドローンをめぐる法規制の最新動向 ~空撮とその映像利用に伴う法的リスク~

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前回の記事では、ドローンを利用したビジネスの急拡大の現状、そして改正航空法やドローン規制法など安全を確保するための法規制について綴りました。前回ご紹介したように、ドローンは、私たちの生活を豊かにする大きな可能性を有している反面、その利用にあたっては、様々な法律問題が生じます。

今回は、ドローンの有効活用のために知っておきたい、最も用途が多いと言われている空撮とその映像利用に伴う法律問題をご紹介します。

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 空撮により、誰にどのような迷惑がかかるのか?

ドローンには、これまでより安価で簡便な方法により、通常予期しない視点から家の中や人の容貌などを同意なしに撮影することができる、という特性があります。

そのため、ドローンを利用した空撮による映像に、

 ① 住居の中などのプライバシー空間

 ② 人の容貌や姿

 ③ 家の表札の氏名・住所などの個人情報

などが写り込む可能性があり、写り込んだ人や家の主から権利侵害だとクレームを受ける可能性があります。

空撮映像をネット上で公開すれば、そのリスクはなおさらです。

2016年5月現在、こういった事態を横断的に防ぐためのドローン特有の法律はまだ存在しませんが、だからといって法律上の問題がないわけではありません。

上記の事例に対して既存の法律がどのような規制をしており、ドローンを利用する事業者にはどのようなリスクがあるのか、順番に見ていきましょう。

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 ① プライバシー侵害のリスク

「プライバシー」は、法律上明確な定義はありませんが、判例上、「他人に知られたくない私的事項をみだりに公表されない利益」として法的な保護の対象とされています。

そして、プライバシーを侵害した人/事業者は、損害賠償請求を受けるリスクや、それに付随したレピュテーションリスクを負うことになります。

プライバシーとして保護されるためには、

  1. 私生活上の事実または私生活上の事実らしく受け取られること(つまり、私生活とは関係ない仕事上の秘密などは除外されます)、
  2. 一般人の感受性を持つ人が公開を欲しないであろうこと(つまり、一般人以上にセンシティブな人の感覚は考慮しません)、及び
  3. 人々に未だ知られていないことが必要とされてきました(*1)。

例えば、個人の住居の中の様子を空撮した映像の公開などがあてはまります。

 

もっとも、プライバシーの保護にも一定の制約があり、憲法上保障されている表現の自由とのバランスをいかにとるかが問題となります。

つまり、ドローンで空撮をしてその映像をテレビやインターネットで公開する側にも、保護されるべき表現の自由があるのです。

そこで、上記a)~c)に該当する場合であっても、その事実を公表されない法的利益とこれを公表する理由とを比較衡量して、後者が前者に優越する場合(つまり、プライバシーよりも表現の自由を優先するべき場合)には、その事実の公表に違法性はなく、プライバシー侵害に基づく損害賠償請求などは認められないとされています(*2)。

 

ドローンによる空撮やその映像の公開が違法なプライバシー侵害に当たるかどうかは、画像の内容や映り方に左右される面が大きく、最終的には事例ごとの判断になります。ここでは、事業者が法的なリスクを最小化する対応策を考えるにあたって、参考になる2つ過去の事例を紹介します。

 

【グーグルストリートビュー事件】

1つ目は、グーグルが、みなさんご存知のストリートビューを制作する過程の撮影で、ある人の自宅のベランダに干してあった下着を含む洗濯物が写り込み、それがストリートビューで公開されたことが、その人に対するプライバシー侵害になるかが争われました。

裁判所は、まず「人におよそ知られることが想定されていない私的事項がみだりに撮影されることはプライバシー侵害になり得る」とした上で、

一般に公道において写真・画像を撮影する際には、周囲の様々な物が写ってしまうため、私的事項が写真・画像に写り込むことも十分あり得るところであるが、そのことも一定程度は社会的に容認されている」と、撮影に伴う写り込みへの理解を示し、

今回のケースでは「ベランダに掛けられている物が具体的に何であるのか判然としないのであるから」、たとえこれが下着であったとしても、違法なプライバシー侵害とはいえないと判断しました(*3)。

つまり、ここでの判断のポイントは、他人が映像を見たときに、写り込んだモノが具体的に何かを認識できるかという点でした。

 

【ジャニーズおっかけマップ・スペシャル事件】

もう1つ、ある出版社がSMAPを含むタレントの住所・電話を掲載した本を出版することがプライバシー侵害にあたるかが争われた事件では、裁判所は、

一般に、個人の自宅等の住居の所在地に関する情報をみだりに公表されない利益は、プライバシーの利益として法的に保護されるべき

と判断し、本の出版差止を認めました(*4)。

 

このような裁判例の傾向からすれば、ドローンによる空撮においても、例えば、屋内の様子や洗濯物その他生活状況を推測できるような私物が写り込んでいる場の撮影なども、その内容が用意に判別できる場合には、違法なプライバシー侵害となり得ます

また、個人の住所とともに、その人の住居の外観写真を無断公開することは、その人が特定の誰かと識別できる場合には、違法なプライバシー侵害となる可能性が高いといえます。

 

なお、撮影行為の適法性とその映像を公開する行為の適法性はそれぞれ別に検討する必要がありますが、撮影がプライバシー侵害となる場合には、その映像をインターネット上で閲覧可能とすることもまたプライバシー権侵害となり得ます

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 ② 肖像権侵害のリスク

肖像権は、プライバシーと似て非なる概念で、判例上、「個人がその承諾なしに、みだりに自己の容貌や姿態を撮影・公開されない人格的な権利」として、法的な保護の対象とされています。

そして、肖像権を侵害した人/事業者は、損害賠償請求を受けるリスクや、それに付随したレピュテーションリスクを負います。

 

もっとも、プライバシー侵害の場合のように、肖像権の保護にも表現の自由とのバランス上、一定の制約があり、肖像権侵害となるかどうかは、撮影・公開の目的・必要性、その態様等を考慮して、受忍限度を超えるような撮影・公開といえるかどうかで事例ごとに個別に判断されます(*5)。

 

1つ過去の事例を紹介しますと、あるファッションビジネス関連の会社が、東京のストリートファッションを紹介する目的で、銀座の公道を歩いていた女性の写真を無断で撮影し、ウェブサイトに掲載したことが肖像権の侵害にあたるかが裁判で争われました。

裁判所は、「本件写真は、原告(撮影された女性)の全身像に焦点を絞り込み、容貌を含めて大写しに撮影したものであるところ、このような写真の撮影方法は、撮影した写真の一部にたまたま特定の個人が写り込んだ場合や不特定多数の者の姿を全体的に撮影した場合とは異なり・・被写体となった原告に強い心理的負担を覚えさせるもの」だと判断し、写真を撮影・掲載した会社に対して35万円の損害賠償金の支払いを命じました(*6)。

つまり、同じ人を撮影しても、その撮影方法によって、肖像権侵害の成否が分かれ得るということです。

 

一般的に、公共の場において普通の服装・態度でいる人の姿を撮影・公開することは、受忍限度内として肖像権侵害にはならない傾向にあります。また、撮影した中に人が写り込んだ場合であっても、それが誰だか特定することができなければ肖像権侵害にはなりません

他方で、自宅の中などといった公共の場でない場所における撮影、または公共の場であっても、特定の個人に焦点を当ててその容貌を大写しにした場合や、いかがわしい場所に出入りする姿などを撮影して公開した場合などには、その内容・状況次第では肖像権侵害となるリスクがあります

 

 ③ 個人情報保護法違反のリスク

個人情報に関しては、個人情報保護法が、「偽りその他不正の手段により個人情報を取得してはならない」と定めています。

ドローンを利用した空撮により、例えば、表札の氏名が判読可能な状態で写っていたり、個人の容貌につき特定の個人を識別できる情報が含まれる場合には、その情報は、個人情報保護法に定める「個人情報」に該当する可能性が高いといえます。

そして、こういった「個人情報」を不正の意図を持って隠し撮りを行うなどすると、同法違反となります

また、現行法上、写真にぼかし処理を加えたとしても加工後の写真と、元写真データと容易に照合できる場合には、当該加工後の写真もなお「個人情報」に該当し、データの安全管理、第三者提供の原則禁止などの各種ルールが適用され得る点も留意する必要があります。

同法違反については、理論上、行政庁(*7)による違反是正勧告や命令を受ける可能性があり、それを無視した場合には六月以下の懲役または三十万円以下の罰金が科される可能性があります。

 

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ドローンを利用して空撮を行う/その映像を利用・公開する事業者としては、法令違反を避けて可能な限りドローンを有効活用するために、まずはこういったリスクを検討し、そのリスクを最小化することが重要となります。具体的なリスク最小化の対策については、別稿で綴りたいと思います。

 

つづく

 

*1 東京地裁昭和39年9月28日判決(宴のあと事件)

*2 最高裁平成15年3月14日第二小法廷判決(長良川リンチ殺人事件報道事件)

*3 福岡高裁平成24年7月13日判決(グーグルストリートビュー事件)

*4 東京地裁平成10年11月30日判決(ジャニーズおっかけマップ・スペシャル事件)

*5 最高裁平成17年11月10日判決(和歌山毒カレー報道事件)

*6 東京地方裁判所平成17年9月27日判決(「街の人」肖像権侵害事件)

*7    平成28年1月1日から個人情報保護委員会が発足しています

 

参考:

・ 総務省「『ドローン』による撮影映像等のインターネット上での取扱いにかかるガイドライン

・ 同ガイドラインに関するパブリックコメント及び回答