映画ビジネスの法律実務 ~リメイク製作で必要となる契約~

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「『七人の侍』をハリウッドリメイクした『荒野の七人』、豪華キャストで再映画化」

 

先週、黒澤明監督の代表作「七人の侍」と、それがアメリカで西部劇映画風にリメイクされた「荒野の七人」が更にハリウッドにおいてリメイクされた新作品「マグニフィセント・セブン」の日本での劇場公開の決定が発表されました。

以前こちらでも綴ったとおり、一般的に、映画や小説などの作品(原作)をリメイクする際には、それがどこの国であっても、原作を製作した権利者たちから承諾をもらうなどして、権利者の権利を侵害しないよう処理する、いわゆる「権利処理」というプロセスが必要です。今回は、権利処理の中でも特に重要となる、原作の権利者とリメイク製作者との間で締結するべき契約について、できるだけ中立的な観点から、ハリウッドの実務等も踏まえてご紹介します(*1)。

 

magnificent seven

 

☞ なぜ契約が必要なのか

原作となる映画や小説は、「著作物」として著作権法上の保護を受けます。原作をリメイクすることは、著作権法では「翻案」と呼ばれ、リメイクを著作権者の承諾なくして勝手に行うことは著作権侵害となります。
そして、原作映画の著作権者は、日本では通常、自らの決定とお金の負担により映画を製作した人または会社(著作権法上の「映画製作者」)であり、具体的には、配給会社、テレビ局、広告代理店、出版社など映画の製作委員会のメンバーが共有していることが多く見られます。詳しくは、こちらの記事をご参照下さい。これに対して、原作小説の著作権者は、通常、その作品を書いた小説家となります。

この場合、原作のリメイクを作るにあたっては、これらの原作映画の著作権を持つ人たち全員(以下「権利者」と呼びます)または原作の小説家から承諾をもらうことが求められます。当然、原作の権利者としても、その承諾の対価を求めるわけですから、権利者・リメイク製作者間で契約を締結することになります(*2)。

一般的には、

①権利者がリメイク製作者に対して原作の著作権を譲渡する契約(原作権譲渡契約)、

②著作権譲渡の予約をする契約(オプション契約)、あるいは、

③原作の使用を許諾(ライセンス)する契約

を締結することが考えられます。

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映画製作の場合の関係図一例。

 

☞ ①原作権譲渡契約

これは、原作の著作権の売買という一見シンプルな契約ですが、実は、この契約内容の複雑さ・細かさについては、国によって業界慣習が異なります。例えば、これまで人的な信頼関係をベースとしてきた日本のエンタメ業界では、比較的シンプルな契約書が作られることが多いですが、他方で、見方によっては度を越えた契約社会であるハリウッドのエンタメ業界では、数十ページの詳細な契約書が作られることが一般的です。日米間での交渉が大変なのは、法制度の違いもありますが、それよりも、こういった業界慣習の違いによるところの方が大きいと感じます。

最近では、中国での映画が活況を博していますが、中国ではハリウッドのような実務慣行が確立しておらず、日中間での交渉は 比較的簡素な契約で締結に至る印象です。

契約書に規定するべき具体的な条項については、別稿で綴りたいと思います。

 

☞ ②オプション契約

原作権譲渡契約の場合、リメイク製作者としては、多額の対価を支払って著作権を買い取ったにも関わらず、その後の映画製作資金の調達ができなかった、キャストとの出演交渉に失敗したなどの理由で、リメイク製作が頓挫する可能性があり、そうなると、支払った著作権の対価が無駄になってしまうリスクがあります。

そこで、リメイク製作者としては、著作権購入の対価の一部を権利者に支払って、権利者との間で、著作権購入の予約をすることでリスクを和らげる方法がよく採られます。これは、買主であるリメイク製作者に対して、一定の期間(オプション権行使期間)内に、著作権を買い取るかどうかの排他的なオプションを与える内容であるため、オプション契約と呼ばれます。リメイク製作者は、その期間中に、支払った予約料(オプション料)を無駄にしないために、製作資金の調達や出演者との交渉などを行います。他方で、権利者からすれば、オプション権が結果的に行使されなければ(結構多いようです)、権利を譲渡せずしてオプション料を得ることができます。

一般的には、オプション権を取得したリメイク製作者は、オプション権行使期間が満了するまでに、①オプション権を行使して著作権を購入する、②オプション権を行使しない、③オプション権行使期間を延長する、のいずれかの選択をすることになります。

このような、著作権の譲渡や譲渡の予約という方法は、ハリウッドにおいてはスタンダードな方法ですが、日本の権利者にとっては、権利を譲渡することは抵抗が強い場合があり、両者の調整が必要になります(これも大変です。。)

 

☞ ③映画化許諾契約

そこで次に、権利者がリメイク製作者に対して、原作の著作権を譲渡せず、原作の使用を許諾(ライセンス)するという方法があります。

許諾契約であっても、リメイク製作者に対して独占的に幅広い利用を許諾し、利用方法や地域、言語などの制約がない旨を規定した上で、許諾の期間を著作権存続期間とすることで、実質的には著作権の譲渡とほぼ同様の効果を作り出すことができます

もっともこの場合であっても、①著作権の主体がリメイク製作者に移転するか、②誰が著作権の侵害に対する法的救済を求めることができるか(許諾の場合には、許諾者)(*3)、といった点で著作権譲渡との違いが生じます。

 

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このように、リメイク作品の製作にあたっては、様々な法的な検討・処理が必要となります。

国内でも難しい交渉はありますが、とりわけ海外の相手との契約が絡む場合には、文化や法制度の違いなどから交渉が長期化し、難航することも頻繁に起こります。そうした事態に備えて、

  • 自国以外でどのような権利処理をしているのか、どのような契約を締結することが一般的なのかといったことをできる限り事前に知っておく、
  • 相手国の慣習が受け入れがたい場合には、 相手側の実務と背景理由をできる限り理解した上で、双方が妥結できる可能性のある選択肢をできるだけ多く考えておく
  • 自国の文化や法制度などを相手にとって少しでも分かりやすく、相手が納得できる形で伝える戦略、方法などを十分に練る

などが、 交渉を迅速・スムーズに進め、かつ、納得できる内容で妥結するためにより重要となってくると思います(*4)。

 

 

*1 マグニフィセント・セブンの製作者がどのような権利処理をしたかは知りませんので、ここでは国内外における一般的なリメイク製作の実情をお伝えしています。

*2 映画の権利処理としては、他にも、原作のプロデューサーや監督が有する著作者人格権や、原作の脚本家や音楽の作詞・作曲家が有する著作権の処理なども必要となり得ます。

*3 差止請求の主体については、学説上争いがあるところで、独占的に許諾を受けた者については、解釈論上、差止請求を求めることができるという有力説もあります。

*4 この記事の内容は、筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する組織の見解ではありません。