映画ビジネスの法律実務 ~リメイク製作で必要となる契約②~

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前回の記事で紹介した、「七人の侍」のハリウッド版リメイク映画製作のニュースに加えて、セガのアクションRPGゲーム「レンタヒーロー」や時代劇漫画「子連れ狼」のハリウッド版リメイク映画(*1)など、最近、日本のエンターテイメントコンテンツの海外版リメイク映画製作のニュースを頻繁に目にするようになりました。

前回の記事では、映画や小説などのリメイク映画製作にあたって、リメイクの対象となる映画や小説(これらを「リメイク対象作品」と呼びます)の著作権者とリメイク製作者の間で締結するべき契約の選択肢として、①原作権譲渡契約、②オプション契約、③リメイク映画化許諾契約の3種類を紹介した上で、国による契約慣習の違いなどをお伝えしました。今回は、もう少し踏み込んで、各契約にて検討するべきポイントを2回に分けてご紹介します。

 

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☞ 誰が契約当事者となるのか?(誰から承諾を得るのか)

リメイク製作は、著作権法上、リメイク対象作品の「翻案」にあたるため、リメイク対象作品の著作権者の許諾なくして行うことはできません。したがって、主に著作権に関する取決めを定める①原作権譲渡契約、②オプション契約、③リメイク映画化許諾契約の当事者となるのは、リメイク対象作品の著作権者とリメイク製作者となります。

リメイク対象作品が映画の場合には、日本では映画の製作委員会のメンバーがリメイク対象作品映画の著作権を共有しているケースがほとんどです(*2)。これに対して、リメイク対象作品が小説の場合には、他者に対する著作権の譲渡がなされていない限り、小説を書いた人(小説家)がその小説の著作権者となります(*3)。

このように、リメイク対象作品の種類などによって、誰がその作品の著作権者なのかが変わってきますが、ここではリメイク対象作品の著作権者をまとめて「権利者」と呼ぶことにします。

なお、映画の場合、例えばリメイク対象となる映画の脚本や音楽なども、映画とは別に独立して著作権の対象となります。または、その映画の元となった作品(小説やマンガやゲームなど)があれば、その作品についても同様です。そのため、ここでは詳しい内容は省きますが、リメイク製作者としては、別途、脚本の著作権(*4)や、音楽を使う場合には楽曲の著作権に関しても権利処理が求められます。

これに対して、リメイクではない1作品目の映画を作る場合には、上記のようなリメイク対象作品の権利処理を考える必要はありませんが、製作委員会が映画制作を委託した映画制作会社との間で映画の著作権の処理が必要となります。併せて、脚本や音楽、または場合によっては元となった作品の著作権の権利処理が必要となる点はリメイク製作の場合と同様です。

 

REMAKE

 

☞ 原作権譲渡契約

まずは、リメイク対象作品の著作権を譲渡する契約において押さえておきたいポイントを挙げてみます。

1.譲渡対象となる権利の明確化

著作権は、著作物の複製を独占する権利(複製権)や、著作物をもとにその内容に一定の変更を加えて二次的著作物を創ることを独占する権利(翻案権)など様々な権利の束です。したがって、リメイク製作者が安心してリメイク対象作品の内容を映画製作に利用するためには、具体的にいかなる権利がいかなる範囲で譲渡されるのかを明確にすることが重要となります。

日本では、リメイク映画の製作とその利用のみならず、より広く、前編や後編の製作や、テレビ放送、インターネット配信、場合によっては、ゲーム化、舞台化などまで想定して譲渡対象とすることが一般的です。この点が曖昧で後日争いになったケースも散見されますので、契約段階で検討するべき内容といえます(*5)。

なお、ハリウッドの業界慣習では、日本での案件以上に、包括的かつ細かく譲渡対象が明記されるのが通常です(これだけで契約書数ページ以上とか!)。アメリカでは、映画製作にかける金額が日本より高額な案件が多いため、契約にはより一層慎重になっていることに加え、裁判において、不明確な契約書は、それをドラフトした人に不利に解釈される傾向があるため、念には念を持って細かく規定しておこう、という発想が強いのです。

 

2.権利者に留保される権利

例えばリメイク対象作品が小説の場合、その小説家としては、その小説の映画化には歓迎でも、映画製作以外、例えば小説を出版したり続編を作ったりする権利までは譲渡したくはない場合もあるでしょう。

他方で、リメイク製作者としても、コストを抑えるため、必要な権利だけ購入したいということもあるかと思います。

こういった場合には、権利者である小説家に一定の権利が留保される旨を規定します。

一定の権利が留保された場合であっても、例えば、その小説家が小説の続編や前編を出版した場合には、リメイク製作者に対して、その続編・前編のリメイク映画を製作する権利に関する優先交渉権を与える内容まで契約書に規定することもよく見受けられます。この場合、優先交渉権の具体的内容についての創意工夫、ワーディングがポイントとなります。

 

3.対価

対価は、固定金額とする場合と、利益分配の計算式を規定する場合があります。

金銭の支払に関する部分は、後日最も争いが起きる部分の一つですので、金額の計算や支払時期、方法などをできる限り明確に取決めをすることが重要です。

また、この対価の条項では、リメイク作品やその派生作品の利用によって発生した収益の権利者への分配まで取決めをすることもあります。

なお、対価の計算式は、日本でもしばしば複雑なことはありますが、ハリウッドでは更に、メジャースタジオの提案する利益分配の計算式が年々複雑化しており、この計算方法だけで契約書数ページということも頻繁にあります。その分かりにくさゆえに、“Creative accounting”(会計操作)と揶揄されることもあるようです。

 

production

 

4.表明保証

万が一、リメイク対象作品の内容が他人の著作権や名誉権、プライバシーなどを侵害する内容(例えば、実在の人をモデルにした作品など)だと、そのリメイク作品まで同様に権利侵害となる可能性があります。仮にリメイク対象作品に権利侵害の要素があったがために、リメイク作品まで他人の権利を侵害してしまい、裁判所においてその上映が差止めにでもなれば、リメイク製作者としては莫大な損失を抱えてしまいます。

そのため、リメイク製作者としては、権利者に対して、「権利者が著作権を有していること」や、「作品の内容が第三者の権利を侵害していないこと」などを表明・保証してもらい、万が一違反があった場合の権利者の補償責任などを明確にする規定を求めることが通常です(*6)。金額の大きい案件などでは、別紙などで多数の項目を定める場合もあります。

他方で、権利者としては、自分の小説などの作品の内容が無意識のうちに他人の権利を侵害してしまっている場合にまで責任を負うことを避けるため、表明保証に「権利者の知り得る限りにおいて・・第三者の権利を侵害していないこと」などと責任の範囲を限定するよう求める場合もあります。

 

5.著作者人格権を行使しないこと

著作者人格権とは、著作者の著作物に対して有する人格的利益を保護する権利で、日本の著作権法上は、これには、著作物を自らの意思に反して改変されない権利(同一性保持権)が含まれます。

例えばリメイク対象作品が小説の場合には、著作者である小説家に著作者人格権があり、著作権を譲渡した場合であっても、著作者人格権は著作者である小説家に残ります(*7)。

そこで、リメイク製作者としては、小説家に対して、たとえどのような内容のリメイク作品を作ったとしても著作者人格権を行使しない(つまり、差止め等を求めない)という約束を求めることが通常です。

他方で、小説家の側からすれば、自分の作品が意思に反する内容にリメイクされてしまわないか(例えば、下品または低俗な内容に変えられてしまったなど)が心配で著作者人格権を行使しない約束を無条件で受け入れることが難しいこともあろうかと思います。このような場合、著作者人格権を行使しない約束はする代わりに、小説家のリメイク作品に対するクリエイティブコントロールを一定程度認めるなどといった折衷案も考えられます。なお、日本では権利者のクリエイティブコントロールを一定程度認める事例が多い反面、ハリウッドではこれを認めないのが通常です。

 

6.クレジットの扱い

リメイク作品の上映や、その広告をする際に、リメイク対象作品名や権利者の表示をどのようにするかについても、事前に検討しておくのが宜しいかと思います。同じ言語の場合もそうですが、言語が異なる場合にはより慎重な対応が望ましいです。

 

7.その他

その他にも、

  • 一定期間内にリメイク製作者が製作を開始しない場合に、譲渡された権利がリメイク対象作品の権利者に復帰すること、
  • 権利者がリメイク作品の販促活動の協力すること
  • 一般条項(紛争解決の方法など)

などを検討・規定することが考えられます。

 

以上が原作譲渡契約の際に押さえておきたいポイントですが、少し長くなってしまいましたので、オプション契約とリメイク映画化許諾契約のポイントについては、次回綴りたいと思います(*8)。

 

つづく

end

*1 「子連れ狼」に関しては、漫画作品「子連れ狼」がもとの作品、それを日本で映画化した「子連れ狼 その小さき手に」を今回ハリウッドで更にリメイクするようです。

 

*2 製作委員会は、日本の映画業界では主流であるものの、私の知る限り、海外では主流ではなく、ハリウッドでは製作委員会方式すら皆知りません。製作委員会方式は、出資者が多いという性質上、リスクの分散ができるといったメリットがありますが、他方で意思決定がスムーズに進まないことが多いといったデメリットがあります。

 

*3 リメイク対象作品たる映画のもととなった作品が小説というケースもあり、この場合には、リメイク対象となる映画の著作権とは別に、もとの小説の著作権の処理も問題となります。

 

*4 原則として、脚本の著作権は、原始的には脚本家に帰属しますが、映画に使用されるために脚本が書かれた場合には、著作権が製作委員会に譲渡されていることが一般的です。その場合には、製作委員会とリメイク製作者との契約において、まとめて脚本の著作権についても取決めをすることになります。

 

*5 リメイク映画製作における著作権譲渡の事例ではないですが、過去の有名な裁判例として、映画の監督兼脚本家が映画製作会社に対して、一定の報酬を対価に脚本を使用して映画を製作して利用することを許諾し、その際契約書を作成するなどして許諾の範囲を明確にしていなかったところ、後日、この許諾の範囲に、映画の製作・上映のみならず、追加報酬なしでビデオグラム化やテレビ放送まで含まれていたかが争いとなりました。裁判所は、映画業界における製作費の回収状況や両者の交渉の内容・経緯等から、本件の許諾には、本件映画製作会社がビデオグラム化やテレビ放送などの二次利用をすることまで含まれていたと判断しました(スウィートホーム事件。東京地裁平成7年7月31日判決)。

 

*6 日本には馴染みのない制度ですが、ハリウッドで映画を製作する際には、E&O(エラーズ&オミッション)保険という、第三者からの権利侵害の請求による映画製作者の損失を補填する保険に加入することによって、権利侵害のリスクに備えています。

 

*7 日本法では、著作者人格権は、著作権(財産権)とは別の他者への譲渡ができない権利であり、著作権を譲渡した場合であっても、著作者人格権は著作者である小説家に残ります。

映画に関しては 、日本法では、(「著作権者」が通常製作委員会のメンバーであるのに対して)映画のプロデューサー、監督、ディレクター、撮影監督、美術監督など、「原作映画の全体的形成に創作的に寄与した」といえる人たちが著作者となり、著作者人格権を有するのが原則です。なお、これらのプロデューサーなどが法人の従業員である場合には、一定の条件のもとで、その法人が著作者となる「職務著作」による例外があります。

 

*8 この記事の内容は、筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する組織の見解ではありません。