映画ビジネスの法律実務 ~リメイク製作で必要となる契約③~

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このシリーズ記事の第1回では、映画や小説のリメイク製作にあたって、リメイクの対象となる映画や小説(これらを「リメイク対象作品」と呼びます)の著作権者とリメイク製作者の間で締結するべき契約の選択肢として、3種類をご紹介しました。そして、前回の記事では、もう少し踏み込んで、そのうち①原作権譲渡契約締結にあたって押さえておくべきポイントを、国による契約慣習の違いなども踏まえつつお伝えしました。今回は、その続きで、②オプション契約と③リメイク映画化許諾契約において検討するべきポイントをご紹介します。

 

REMAKE

 

☞ オプション契約

シリーズ記事の第1回でもご紹介したとおり、オプション契約とは、リメイク製作者が著作権購入の対価の一部をリメイク対象作品の著作権者(以下「権利者」と呼びます)に支払って、権利者との間で、著作権購入の予約をする契約をいいます。オプション権を取得したリメイク製作者としては、その行使期間が満了するまでに、

  • オプション権を行使して著作権を購入する、
  • オプション権を行使しない、
  • オプション権行使期間を延長する、

のいずれかの選択をすることになります。

以下、契約の際に押さえておくべきポイントを挙げてみます。

 

1. オプション料

これは、通常オプション契約締結時に支払ういわゆる予約料で、その額はケースバイケースですが、著作権購入の金額の10%程度が一般的です。このオプション料は、たとえリメイク製作者が、映画製作資金の調達ができなかった、キャストとの出演交渉に失敗したなどといった事情でオプション権を行使しなかった場合(結構多い)であっても返還はされず、その場合は権利者が権利を譲渡せずしてオプション料を得られることになります。

 

2. オプション権行使期間

実務上交渉のポイントの一つですが、契約締結から1年間程度が多く見受けられます。

オプション権行使期間が満了する際には、リメイク製作者の選択によって、追加オプション料を支払って、行使期間を延長することができるというケースもよく見られます。

 

3. 原作権譲渡金額

これは、オプション権が行使された場合に、リメイク製作者から権利者に対して支払われる金銭で、上記著作権譲渡の対価と同様です。

この対価は、固定金額とする場合と、利益分配の計算式を規定する場合があります。

金銭の支払に関する部分は、後日最も争いが起きる部分の一つですので、金額の計算や支払時期、方法などをできる限り明確に取決めをすることが重要です。

この場合、オプション料(と追加オプション料)は、この対価に充当されるのが一般的です。

 

4. オプション権を行使した場合の取決め

オプション契約は、著作権の売買の予約を定めるものですから、リメイク製作者がオプション権を行使した場合(つまり、著作権を買い取る選択をした場合)の売買の内容まで予め決めておく必要があります

この内容については、基本的に、上記の原作権譲渡契約と同様であり、その内容をオプション契約書本文に規定する場合もあれば、契約書別紙に原作権譲渡契約を添付する場合もあります(*1)。

 

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☞ リメイク映画化許諾契約

これは、権利者がリメイク製作者に対して、リメイク対象作品の著作権を譲渡せず、リメイク対象作品の使用を許諾(ライセンス)するという方法です。

ここでも、検討すべき重要なポイントは、著作権譲渡の場合とほぼ同じ要領で、

  • 許諾対象となる権利の明確化(譲渡の場合と異なり、許諾の期間や、独占的な許諾か否かなども検討事項となります)、
  • 権利者に留保される権利、
  • 対価、
  • 表明保証、
  • 著作者人格権を行使しないこと、
  • クレジットの扱い、
  • その他一般条項など、

について検討することになります。詳しくは、前回の記事をご参照下さい。

許諾契約であっても、リメイク製作者に対して独占的に利用を許諾し、許諾の期間を著作権存続期間とすることで、実質的には著作権の譲渡とほぼ同様の効果を作り出すことができます

もっとも、映画化の許諾によっても著作権はリメイク製作者に移転せず、著作権の譲渡と比べると、契約内容次第では(例えば、許諾期間や、独占的許諾か否か、サブライセンスのコントロールなど)、権利者の権利が維持されることになります。また、著作権の侵害に対する法的救済を求めることができるのも、権利者となります(*2)。

 

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以上で見た3つの契約をざっくり表で比較してみると、以下のようになります。

①原作権譲渡契約 ②オプション契約 ③リメイク映画化許諾契約
権利移転 譲渡契約の実行によって移転する

明確な移転時期・条件は契約で定める

オプション権の行使によって移転する 移転しない
対象権利及び留保権利 契約で定める 契約で定める 契約で定める
譲渡・許諾期間 原則、譲渡の効果は永遠。ただし、権利の復帰を定めることも可能 期間内にオプション権が行使された場合には、原作権譲渡契約と同じ 契約で定めた許諾期間
対価 原作権譲渡の対価

固定金額または計算式による

オプション料+原作権譲渡対価(オプション料が充当されることが多い)

固定金額または計算式による

映画化許諾の対価

固定金額または計算式による

権利者による第三者への権利譲渡・許諾の可否 契約上不可 契約上不可 独占的許諾の場合には、契約上不可
リメイク製作者による第三者への権利転売またはサブライセンス可否 可能

ただし、別途合意により一定の制約を課すことも可能

可能

ただし、別途合意により一定の制約を課すことも可能

権利者の許諾を不要とする合意のない限り、サブライセンスには権利者の許諾が必要
第三者に対する差止め請求の主体 リメイク製作者 リメイク製作者 リメイク対象作品の権利者(*2)

 

***

 

以上でご紹介した内容以外にもポイントはたくさんありますが、いずれの契約であっても、重要なことは、契約締結時に可能な限り、お互い懸念事項を洗い出し、両当事者できちんと話しあって、内容を明確に決めておくことです。

信頼関係のある相手に対して、細かい懸念事項や責任分担の話を持ち出すことには躊躇を感じるかもしれませんが、取引開始前が合意という共通の目標に向けて当事者が協力するインセンティブが働くタイミングであり、また取引開始後にお互いの意見がぶつかりそうな内容を事前に話し合って決めておかないと、後になって、理解の齟齬や話の食い違いから紛争に発展するリスクが出てきます。

また、契約書の内容を詰める作業をすることは、先のことも見据えた取引のフローを明確にし、両者の役割分担を決めることにもなり、契約締結後の取引自体をスムーズに進めることにもつながります(*3)。

 

 

*1 オプション契約において、譲渡対象となる権利が明確に合意されていなかったことにより紛争になった最近のケースとしては、「子連れ狼」という物語(別途、漫画家によって物語が漫画化されていた)の実写映画化権をめぐる裁判があります。ここでは、映画製作会社が、物語の執筆者との間で、「子連れ狼」を実写映画化する権利を購入するオプション契約を締結したところ、後日、実写映画化をめぐって第三者を巻き込んだ紛争に発展しました。その際、オプション契約書の文言が曖昧であったがために、譲渡される権利の対象が「子連れ狼」の原作物語なのか、それとも、その物語が漫画家によって作画された漫画なのかが争われました。裁判所は、契約当事者が「子連れ狼」の(漫画ではなく)物語に基づく実写映画化のために交渉、契約したことや、実写化に当たって特段作画(漫画)を利用する必要は ないことなどを理由に、オプション契約の対象が、漫画ではなく原作の物語であると認定しました(「子連れ狼」事件。知財高裁平成26年3月27日判決)。

 

*2 独占的に許諾を受けた者については、解釈論上、差止請求を求めることができるという有力説もあります。

 

*3 この記事の内容は、筆者の個人的な見解であり、筆者が所属する組織の見解ではありません。